ノンフィクション

リアルな現実の狭間で生まれる様々な感情

荒んだ心に一筋の光

好きなときに学校に行き、飽きれば帰る。そんな学校生活を繰り返していた。
幸い、仲間には恵まれ放課後になれば家に皆が集まり、晩飯時に一旦解散、22時頃に近所の公園に集まり2時間くらいたむろするのが日課だった。


そこから帰ってゲームして、寝て起きれば給食前くらいの時間だったし、そのとき学校に行くときもあれば行かないときも多かった。
どうせ放課後にはみんなが来る、わざわざ窮屈な学校に行くのも面倒だなーと思っていた。


10月頃になると、受験への焦りか、クラス内がピリピリしていた。
といっても、俺が登校したときだけだと思うが。
特に女子の視線が明らかに違う。厄介者が来たよ、でも言えないな、みたいな空気を感じ取れた。


(あれ、オレってクラスメイトにも嫌われた?)


当然といえば当然かもしれないが、小心者の自分は少し傷ついてもいた。
先生も俺が途中で教室に入っても相手にはしない、誰も声なんか掛けない、そんなとき


『おはよう、久しぶりだね』


ん?と思い、斜め後ろの席から微笑を浮かべながら挨拶をしてくれた娘がいた。
アカリだ。一目ぼれというとおかしいのだが、一目ぼれだった。
何度か話したことはあるが、意識もまったくしていなかった相手に一瞬で惹かれた。


砂漠で飲む水と、涼しい所で飲む水じゃその価値は違う。
乾いた心に、アカリの屈託のない笑顔が染み渡ったのだろう。


その日以来、アカリを意識し、学校に行けば話すことが多くなった。
そんな姿を見て周りの女子からは


『ねぇ、ケンジってアカリちゃんのこと好きなの?』


やんわりと否定はするが、否定ではない姿を見て、周囲にはバレバレだっただろう。


ちょっとずつ、距離を縮めていって、ある日告白をした。答えはNO。


『なんか付き合うとかよく分からないから・・・』


たぶん、俺が不真面目なヤツだと思っていたんだろう。いや、俺自体は不真面目だが、この恋をマジもマジの大真面目だった。


その後も、途中まで一緒に帰ったり、電話したりちょっとずついい感じになっていた。


いつものようにバスを待つ時間に人気のない駐車場で談笑していたときに、
徐々に訪れる沈黙の時間。
良い雰囲気だ、キスをしよう!・・・していいのか?もし思い違いで拒絶されたらたぶんこの関係は終わりだ。


あの時の葛藤と、ドキドキは青春の一ページとしてしっかりと刻まれている。
ガチガチになった体を近づけ、唇をそっと重ねた。


『俺と付き合ってください。』


『・・・うん、いいよ』


こうして俺はアカリと付き合うことになった。
後日、交際をOKしてくれた理由を聞いたところ、遊びじゃないんだな、ってところと、なんかこういうのが付き合うだったら良いかな、とのこと。


どんな交際を思い描いていたかは知らないが、凄く嬉しかったことを覚えている。
あと、周りの女子が、当初ほとんど信じていなかった。


アカリは優等生でおとなしい娘だったから、俺とは付き合うワケがない、と思っていたんだと思う。
そのおかげか、教師に知れ渡るのも結構遅れていた。


あの子がアイツなんかと付き合うワケないだろ、と。
それがまた一波乱を起こしてくれるワケだが・・・

自由ときどき孤独

夏の暑さも大分和らぎ、二学期を迎えた。
この頃になると、学校に一時間目から行くことはほとんどなかった。


昼夜逆転の生活をしていたせいもあるし、この時は高校への進学は考えていなかったのが大きな理由であろう。


(学校って何を学べば良いんだろ?俺は先生から勉強以外教わることは何もないな)
と、この頃は本気で思っていた。
そして、その授業の内容は会社に勤めてからほとんど使わない知識なんだとも思ったいた。


これは正解でもあるし、不正解でもあると大人になった今はそう思えるようになった。
大人になればほとんどの人が生きていくタメに働く。そしてお金を得る。
そこには嫌なことも辛いこともあるであろう。


時に我慢をし、努力をし、結果を出すことが生きていく中で少なからず必要なのだから。
義務教育の過程において学校生活とは云わば社会に出ていくタメの準備であり、学生にとっての努めなのだ、とは当時は思わなかった。


嫌なことがあれば抜け出す、逃げ出すということも時に必要だとは思うが、そこに自分自身の甘えしかないようであれば、結果として自分の糧にはならないとも思う。


しかしながら人生において何が無駄で、何が必要かは簡単に図れるモノではないから面白い。俺は今でもあの時の自分の行動が正しいか、それとも間違っていたのかはわからない。


話を戻して、当時の我が校は細かな校則が多く、それがまた癪に障った。
靴下、靴を基調としていないといけない。
前髪は目に掛からない。整髪料を付けてはいけない。


そんな一つ一つを破りたかった。誰かが決めたもっともらしいルールも実をなしてなければ意味がない。そんな風に思っている。


学年でも1,2の成績を誇る、女生徒にもウチの担任はネチネチ言っていた。
その子は髪を染める子ではなく、地毛が明るい色だっただけなので、落ち込む彼女を見ると勝手に怒りが湧いてきた。


だからといったワケではないが、ある日、髪の毛をキンパツにして学校に行ったことがある。キンパツにした、というよりは自分で毛染めをしてそのまま眠りこけたら綺麗なブロンドヘヤーになっていただけど・・・


『おい、見ろよアイツ、マジで金髪で学校来やがったぞ!』


ある種パンダのような扱いだったけど、目立ちたいという欲と教師への反抗心があったのだと思う。


どうして当時そこまで反抗していたかというとワケがある。


授業中なんとなくお喋りをしている教室の雰囲気を正そうと、オレだけがやり玉に挙げられ叱られる。
コイツを抑えれば、他の生徒も言うことを聞く、そんな教師の態度が非常に気に食わなかった。俺が一番騒いでいるならともかく、教師のマウンティングのために怒られるのは面白くなかった。


『お前を注意した分だけみんなの授業が遅れた!どうするんだ!やる気がないなら帰れ!!』


ドヤ顔で授業を再開する教師を前にカバンを持ってそのまま教室を出ていった。
自宅に帰って数時間後、担任の荒井が迎えにきた。


『ケンジいるかー、学校行くぞー。』


何がびっくりって勝手に家に入ってきたことだ。そして時計を見て
『もう少しで給食だな。一服するか、おいタバコくれ。』


おおよそ教師が言うセリフじゃねぇ、だろと思いつつ。ベッドの上に置いてあった半年前くらいまえのタバコを玄関にいる荒井に渡した。


『・・・うん?何か変な味しないか?』


こういう感の鋭いところは俺も一目置いていた。


荒井は、先ほどの事情をその先生から聞いて呼び戻しに来たのだろうが、
そのことには触れずに連れ戻すのだから、メンツを持つワケじゃないが学校に戻った。


そんなマウンティグ教師はいつしか俺のことを『ケンちゃん』と呼ぶようになっていた。
懐柔しようとしたのかは知らないが、心底気持ち悪く、ますます大人の汚さが目に付くようになった。自分が間違ってないと思うなら、とことんぶつかってこいよ、なんで方向転換するのかが分からない。


簡単にいうと、いつしか俺は教師の中から腫れ物みたいな扱いを受けていた。
ああ、そうですか、それなら好きにさせてもらいますよ。


大人になって振り返れば、当時の俺は真正のかまってちゃんだったのかもしれない。