ノンフィクション

リアルな現実の狭間で生まれる様々な感情

思春期それとも発情期

中3にもなれば、チラホラ彼女が出来たりするヤツもいた。

好きだけど告白できない、なんて男もやっぱりいるわけで、それとなく相手の女の子の腹を探りキューピッドになったりもした。


『たぶん、〇〇ちゃん、お前のことすきだぜ。イケるよ。告白しちゃえよ!』


『うーん、どうかなー。そうかなー?』


そんなアイツが気付いたときにはその娘と一緒に帰る姿を見て、心で笑って、指を咥えていた。


かくいう、オレたちはというと、あるゲームにハマっていた。


『告白ゲーム』


イケそうな女の子に告白して、そのやりとりを楽しむという何とも下世話なゲームだ。


でも、彼女が欲しいヤロウ共は、嫌々半分、期待半分で女の子に告白していた。

ちなみに告白するのは罰ゲーム式になっており、トランプだったり、ゲームだったり、公平的に見せて

ある意味仕組まれた結果となっていた。


その日のチャレンジャーはカズたん。夏休みの宿題を一つも終わらせない勇者だ。

告白する相手は同じ部活の女子。


告白は恥ずかしいけど、彼女は欲しい、でも振られたくない。そんな乙女な男心を揺れ動かす、

ナイスな人選を選ぶのはオレの役目だった。


『いや、行けるべ!頑張れよ。』


本人も手応えがあるのか、満更でもない顔で電話を手に取った。



『もしもし、オレだけど、分かる?』


この当時は携帯電話がそこまで普及していないので自宅アタックが主流だった。

母親が出れば何とかなるものの、父親なら緊張感はマックス。今回は本人が直接出た。


『…え、うん。カズたんでしょ?』


『うん、あのさー…』


たわいもないやりとりをニヤニヤしながら見つめる一同。

この緊張感が面白い。たまに長引く場合もあるのでその時はカンペで『早く告れ!!』と指示が飛ぶ。

人の恋路を何だと思ってる、とも思ったがこれは告白ゲームであり、余計なイチャイチャは要らないのである。



『オレさ、〇〇ちゃんが好きなんだよ。付き合ってくれない?』



数秒の沈黙のあとに


『ホントだって。嘘じゃないよ!』


この緊張のやりとりの時はハンズフリーを切って、二人だけの空間にするのがお決まりだ。

でないと、周囲の喧騒や主に笑い声が相手に伝わってしまうから。


『そっか、うん。分かった…』


カズたんは静かに電話を切った。


『おい、どうだった?OK?』


群衆たちがカズたんを問い詰める。


『うーん、ちょっと考えさせてだって。』


どよめきが上がる一同。カップルが成立するかもしれない事態に周囲は盛り上がっていた。


『どうなんだよ!手応えは!?イケそうか?』


照れながら『たぶん…』とカズたんは、はにかんだ。



それからいつも通りTVゲームに興じる一同。そこで一人がこういった。


『ねぇ、そろそろ返事聞こうか。ちょっと経っただろ。』


俺は耳を疑った。ちょっとというのは数時間のことでないことなど誰でも分かる。

と、同時にその意図を理解した俺は笑いがこみ上げてきた。


『そうだな、2時間経ったな。おし、カズたん、電話しろ!』


これは告白ゲームであり、お見合いパーティではないのだ。その一瞬だけ笑えれば何でも良いのだと思い、

渋るカズたんに電話を掛けさせた。



『あ、もしもし、オレだけどさ、返事決まった?』


もう笑いを堪えるのに必死だった。どこの世界に返答待ちの女性に催促の電話をするバカがいる。しかも2時間後に。

短いやりとりを終えて、カズたんは電話を切った。


『おい、どうだった?』


『んなもんダメに決まってんだろ!ったくよー。』



この日一番の笑いが起きたと同時に、カズたんの恋は終わりを告げた。


明けて月曜日、その女子が猜疑心の目でカズたんを見ていたのを俺は見過ごさなかった。


このゲームは一つだけルールがあり、それは罰ゲームだと相手に言わないことが前提だった。

それも後に破綻するのだが、この時は女子達にバレていなかったので、ただカズたんが気持ち悪いヤツということで済んでいたと思う。

×

非ログインユーザーとして返信する