ノンフィクション

リアルな現実の狭間で生まれる様々な感情

その時歴史が動いた?

ちょっとずつ、この町に染まってきたオレに転換期が訪れた。

それは美術の時間だった。


普段はジャージで過ごす我が校は、名札を付けないといけない。

名札といっても縫い付けるタイプのやつで、母親のいない我が家では不格好な名札で過ごさなければならなかった。

それが嫌で名札を付けていなかったのだが、幸いというか、事情を察してか、それを咎める先生はいなかった。


美術の加藤先生は授業の度に名札がないことを指摘してきた。それが嫌で自分で縫うのだがいかんせん不格好で、

またクラスメイトに茶化されるのですぐに取り外していた。


そんなある日の美術の授業、俺の近くにきた加藤が呟いた


『お前は何度言っても名札を付けないな。口で言っても分からないなら…』


俺にだけ聞こえる声で、そう確かに呟いた。


どうしようもない気持ちと恐怖があり、美術の時間がある日は学校を休むようになった。

最初は方は父も気付いていなかったが、次第に怪しみ理由を聞いてきたので正直に話した。

何かが変わるのか?と思う気持ちとは裏腹に


『分かった。美術の日は休んでもいいぞ。その代わり他の日はサボるなよ』


拍子抜けする気持ちとホッとする気持ちが芽生えたことを覚えている。



すっかり学校にも部活にも慣れてきた頃、事件は起きた。


その日は家に友達が初めて泊まりに来たときのこと。


そいつらが持ってたタバコを初めて吸い、その後バイクを盗みに行くと言いだしたのだ。


当然止めたのだが、大丈夫ちょっと行ってくるよ、三人組は我が家を抜け出し、町へバイクを調達しに行ったのだ。


俺ともう一人は加わらずに眠ってしまったのだが、起きたときには三人組は戻ってなかった。


人質代わりに預かった財布が残っているということは、捕まったんだろうと察するに充分だった。

案の定警察に見つかり、学校にもバレていた。俺の家に泊まりタバコを吸って、バイクを盗みに行ったという事実が少し歪曲され、

校内での俺の風当たりが変化していった気がする。


『アイツは不良だ』


これは俺の勘違いかもしれないが、そんな空気を感じちょっとずつズル休みが増えた中2の冬を覚えている。

そして進級間近の三者面談で、クボさんに特定の曜日だけ休みが多いことを問われた。


正直に話した。美術の加藤に名札を付けないと殴られるかもしれないと思ったから学校に行きたくなかったと。

その後、家庭科の先生が名札を付けに来てくれたことを覚えている。


そして三年に進級する頃、加藤は居なくなっていた。偶然か必然かは分からないが、清々したことは覚えている…

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