小心者の傷心
慣れない田舎での孤独な夏休みも日を追うごとに少しずつ慣れてきた。
ゲームショップにいたヤツらは地元の漁師の息子らしく腕っ節が強く、愛想や協調性がない。
同族嫌悪とは上手いこと言うもので、夏休み中に何度か掴み合いの喧嘩にもなった。
だけどそこは少年の良いところでもあり、気付けば海で一緒に素潜りをする仲にもなっていた。
本当はダメだけど、サザエやアワビを採って地元の鮮魚店に売りに行き小遣いを稼いでいた。
通りで毎日ゲーセンに入り浸れるわけだ。稼ぐやつは1日1-3万円稼ぐんだから大人顔負けなものだ。
そんなこんなで2学期の始業式を迎えた。
誰だアイツ!?という視線の元、学校に行く。まずは転校の書類を持って職員室にいった記憶がある。
『1組はハズレ』
そう地元のヤツらが何度も言うので1組以外でという想いも届かず、めでたく1組に配属が決まった。
『えー今日から新しい転校生が…』
お決まりの文句だったと思うが、荒井先生は俺を紹介した。
なるほど、角刈りの頭に浅黒の肌、目は鋭く一見ヤクザのような教師だ。
彼がスパイスとなり、少なくとも俺の人生に影響を与えるようになるとは思ってもみなかった。
今でもはっきりと覚えているのは、夏休みの宿題が完了していない生徒が、各科目ごとに立たされる公開処刑があったのだが、
全教科立っているツワモノがいた。カズタンだ。
しかも、心なしかヘラヘラ笑ってやがる。こいつには羞恥心とか、恐怖心とかないんだろうか?と当時は強く思ったが、
終わってないものはしかたない!と豪語できる根性には感服だ。
この当時、転校する前はどちらかというと、ガキ大将タイプだった俺はイジる側からイジられる側を経験した。
移動教室の理科の授業では同じ班のヤツにイスをどかされ、お前の席はねぇ!と何度かやられた。
いつぶっ飛ばそうかと考えていたが、完全アウェーの中、他のクラスメイトを敵に回すのは得策ではないと思い留まった。
力関係が分からない、喧嘩では一番にはなれなさそうなので、武力行使も得策ではないと考え、悶々とした日々を過ごしていた。
そんな中でも話しかけてくれる生徒もいるわけで、隣の女子は親切だった。
大人しく地味でお世辞にも可愛いとは言えなかったが、それを気にさせないほど俺は心細かった。
そんな彼女と話していると、クラスメイトがこう言ってきた
『おい、あんなヤツと話すなよ!』
『え、なんで?』
『アイツ、すげーブスじゃん。あんなのが良いのかよ!』
ある種の擦り寄りだったのかもしれないが、同調する気にもなれず無視して親切な児島さんと話していたら、ますます孤立していたような気がしていった。
そんなある日、クラスの中心的存在だったキンヤ君が俺を仲間の輪に入れようとした。
戸惑うクラスメイトに『良いんだよ!ゴチャゴチャ言うな!』的なことを言ってのを境にクラスに溶け込めるようになった。
理科の授業恒例のイス隠しもなくなり、キンヤ君って凄いんだな、と思った。
そして余裕が生まれてくると色々と田舎の学校のカラーが見えてきた。
まず田舎臭いというか、気取っているヤツがあまりいない。女にモテたいみたいなヤツがいない。
エロビデオやエロ本を学校で堂々と貸し借りしている。
今思えば以前住んでいた町は都会だったんだな、と思う。
スカしてる、カッコつけてる、多分そんな風に思われていたから馴染めなかったんだと今なら思う。
そんな毛色を察してか、ある日、違うクラスの女子に告白された。
人生初めての告白。好きではなかったが、舞い上がった気持ちと、好意はあったので付き合うことにした。
付き合うって何だ?って思う中1の秋であった。