ノンフィクション

リアルな現実の狭間で生まれる様々な感情

少年と大人の狭間

あの当時をいま振り返れば、慌ただしく、といっても勝手に慌ただしさを感じていただけなのだが日常が過ぎていった。

クラスメイト達は私以外全員高校への進学を決めていた。


このご時世に高校に行かないモノなど、稀有な存在なのかもしれないが、僕らの学年では4名ほど高校に行かない生徒がいた。

一人は職人、一人は専門学校、一人は板前、そしてボクサーになりたい、という中二病をこじらせたようなヤツが一人。

もっとも、1番イタイヤツが私であるわけなのだが、高校には行きたくなかったので、仕方ない。


当時は本気で世界チャンピオンになれると思っていたけど、いま思えばなれるワケもないと思う。

動機は不純でもいいと思うが、決意が行動に現れなければ結果は望めない。

ヒモ生活しているバンドマンだって、真剣に音楽に向き合うから売れるワケで、その熱意というモノを

持ち合わせていない、ただ漫然と夢を抱く少年がいただけである。


夢だけは大きい少年は、地元の建設会社で働くがわずか3ヶ月で辞めてしまう。

職場の人は良い人が多かったが、単純に身体が付いていかない。

9時に寝ても朝、身体がだるくて仕方ない。給料を貰っても使う暇もなければ、気力もない。


そこら辺は、ありふれた根性のない小僧だったと歳を重ねた今なら分かる。

後に、中退した仲間なども仕事が続かず、社会に出る厳しさを知った。


己の弱さや愚かさを知ることも生きていく上では必要だと思うし避けられないとも思うのだが、

専門学校に通った彼のこんなエピソードがある。


お調子者で目立ちたがり屋だった、彼はミュージシャンになりたいと、高校へは行かず専門学校の道を選んだ。

その専門学校も月1の登校日を除けば、あとは課題をちょろっとやるような学校だったと聞いている。

そんな彼が造園業でアルバイトをしていると聞いていた。


ある日、彼女のアカリからこんな話を聞いた。


いつものように、待ち合わせ場所で職場の人を待っていたが、その日は誰も迎えに来なかったと。

雨の中、2時間も待ち続けていたんだと。

ひどいよね、と怒るアカリの言葉を聞きつつ、なんとも言えない気持ちが湧いてきた。

普段はバカにされたりイジられるヤツだったが、この話を聞いた仲間は誰も笑ってなかった。


使えなかったのかもしれない、辞めて欲しかったのかもしれない、彼がどんな気持ちで雨の中待ち続けたかと

思うと怒りや悲しみ、切なさなどいろいろな感情が芽生えてくる。


余談ではあるが、その後、ミュージシャンを目指してた彼はまともな職に付くことがなかった。

時系列をすっ飛ばして語るが、少年時代経て次に彼を見たのはTV越しだった。


覚せい剤の密売。


ネットを使って大規模な密売組織の中核を担っていた模様。

地元の仲間になんでこんなことになった、地元帰ってくれば良かったのにと言ったのだが、

その実家は事件の数年前に夜逃げをしていたとのこと。


帰る場所も頼る人もいない人間の末路を見たようでやるせない気持ちになった。

今でもアイツに言いたいことがある。


俺らはバカだのクズだと言われてきたかもしれない。汚い大人を見てきただろう。

なんで、そんな大人になんでなっちまったんだと。


お前が自発的に人を傷つける人間じゃないのは知ってるよ。

でも結果として人の人生を壊してしまったんだよ。


もし、もう一度会えるなら、バカ野郎と言ってあの時のようにふざけ合いたい。

そしてお前ができる、お前が納得できる贖罪を考えてやりたいと思っている。


つらい時、踏みとどまることが出来るのが強さであるならば、その強さを持ち合わせていたいとも思うが、

弱い方、楽な方に流れてしまう愚かさを私は理解できる。


唯一、アイツと違うのは、身近に助けてくれる人が、踏みとどまる力を与えてくれた人がいただけなのだ。

そうでなければ、私もアイツと同じように自分を守るために誰かを傷つけていたであろう。

憤り

アカリという彼女が出来て、俺自身も変わったことがあった。
アカリに恥ずかしい思いをさせないよう、真面目になろうと、胸を張って彼氏ですと言える男になろうと思っていた。


だからといって、高校へ行くワケではない、端的にいうと、他人に迷惑をかけずに全うに頑張ろうと思っていた。俺は俺の道を見つけしっかり歩むぞ!そんな感じだった。


そんなある日、アカリに元気がない。学校でも浮かない顔をしているし、駅までの帰り道も口数が少ない。理由を聞いても何でもない、というだけ。


『もしかして、俺のこと嫌いになった?それなら言ってよ別れるよ。』


所詮オレみたいなもん、嫌われたって仕方ないとも思っていた。
バス停の前で、極力優しく声を掛けたときアカリが突然泣き出した。


『今日ね、学校で先生に言われたの。あんなのと付き合うなって』


以前、俺にマウンティグしてきた女教師がアカリを呼び出し、こういったらしい。


『高校に行ったらあんなヤツのこと忘れるんだから早いとこ別れなさい』
『そもそも志望校に行けなくなったらどうするの!』


噂を聞きつけ、最初は信じていなかったくせに、噂が本当だと分かれば、こんなことを言うんだな。するんだなと怒りに震えた。


『お前が俺のことを好きじゃないなら諦めるけど、アイツの言葉で惑わされるな。』


『そうだよね、ごめんね。びっくりして、どうしたら良いか分かんなくて』


優等生の彼女は先生の態度にも驚いたらしい。あんなヤツとか言うとは思わなかったって。


翌日、朝一番に学年室に行き、マウンティグ教師を呼び出そうとした。
が、担任の荒井もいる。面倒くさい。


『ちっと、先生、話があるんでいいですか?』


『なに、要件があるならここで言いなさい。』


荒井の前でアカリの話はしたくない、ちらっと荒井を見ると、空気を察してか、学年室から出て行ってくれた。こういうところは頭が上がらない。


『昨日、アカリに何か言いませんでした?』


『うん、何のこと?』こいつとぼけやがった。


『アイツ、昨日泣いてましたよ。高校行ったらオレのこと忘れるのかな、って』
『先生は好きな人のこと忘れますか!俺だったら絶対に忘れないですけどね!』


『いや、何があるか分からないじゃない、忘れることもあるってことよ。』


しどろもどろでクソみたいな弁解をする教師。


『俺はあんなヤツでも良いですけど、くだらないこと言わないでください。』


本当はもっと色々と言ったと思うけど、怒っていてほとんど覚えていない。
以来、マウンティグ教師がアカリに口出すことはなかったが、ますます俺の先生嫌いは拍車が掛かっていった。


教師ってのは生徒に何を教えるんだ?きたねえテメエらの理屈とセオリーだけじゃないかとも思うし、まぁ、俺みたいなヤツだったら仕方ないかとも思うが、
あんなヤツと別れろ、は言い過ぎじゃないかなと思う。中学生にはちょっと刺激の強い言葉だと思う。


そのくらい、俺がろくでもない男で不釣り合いなカップルに見えたんだろうね。
でも、男と女なんてそんなもんでしょ。似たもの同志がくっつく様に見えて、ちゃんと補完しあってるんじゃないかな。


俺はアカリと付き合って、人に優しくする意味を教わった。
あの時のおはようの一言が、ろくでなしが、ひとでなしにならずに済んだ分岐点だと思っている。でも、ろくでなしはろくでなし。人はそう簡単には変わらない、ということも知ることになるのだが・・・