すべての少年たちへ
少し大きめのブレザーがようやく気にならなくなった初夏、それは突然告げられた。
『おい、ケンジ1学期が終わったら引っ越すから荷物まとめておけよ』
青天の霹靂なんて言葉は知らなかったが、まさにこのことだろう。
『引っ越すってどこに?しかも何処に!?』
実際、祖父が仕事の都合で引っ越す準備をしていたのは知っていたが
それにしては家が片付き過ぎている気はしていたが、まさか自分達も引っ越すとは微塵も思っていなかった。
1学期の終わり、と言われたが終業式まで3日くらいの出来事だった。
夏休みの予定はない、アホみたいに走らされるサッカー部の練習にも慣れてきた頃だったが、この決定は覆らないのは中1の自分でも理解できた。
あとは、どのタイミングで友達やクラスメイトに言うかだ。タイミングもクソもない、僅か3日なのだが…
結局、誰にも言わずに終業式のHRを迎えた。
誰にも言わなかったのにはワケがある。みんなの驚く顔が見てみたかったのだ。
自分で言うのもアレだが、お調子者で友達は多かった方だと思う。
そんなヤツがある日、今日でバイバイね、となったらどんな反応をするのか見てみたかったのだ。
『えー、残念なお知らせがあります。ケンジが1学期を持って転校することになりました』
夏休みの前の浮かれ切った友達たちは誰も信じてない。
『先生ー、つまんない嘘は要らないですー!』
『本当だ。』
一瞬の沈黙のあと振り返るクラスメイトに『マジ…』とだけ告げると予想通りのリアクションが返ってきた。
その後、よそのクラスと同じようなやりとりをしたあと、12年間住んだ町を後にした。
それが人生の分岐点だったのか、それとも避けようのない運命だったのかは分からない。