ノンフィクション

リアルな現実の狭間で生まれる様々な感情

憤り

アカリという彼女が出来て、俺自身も変わったことがあった。
アカリに恥ずかしい思いをさせないよう、真面目になろうと、胸を張って彼氏ですと言える男になろうと思っていた。


だからといって、高校へ行くワケではない、端的にいうと、他人に迷惑をかけずに全うに頑張ろうと思っていた。俺は俺の道を見つけしっかり歩むぞ!そんな感じだった。


そんなある日、アカリに元気がない。学校でも浮かない顔をしているし、駅までの帰り道も口数が少ない。理由を聞いても何でもない、というだけ。


『もしかして、俺のこと嫌いになった?それなら言ってよ別れるよ。』


所詮オレみたいなもん、嫌われたって仕方ないとも思っていた。
バス停の前で、極力優しく声を掛けたときアカリが突然泣き出した。


『今日ね、学校で先生に言われたの。あんなのと付き合うなって』


以前、俺にマウンティグしてきた女教師がアカリを呼び出し、こういったらしい。


『高校に行ったらあんなヤツのこと忘れるんだから早いとこ別れなさい』
『そもそも志望校に行けなくなったらどうするの!』


噂を聞きつけ、最初は信じていなかったくせに、噂が本当だと分かれば、こんなことを言うんだな。するんだなと怒りに震えた。


『お前が俺のことを好きじゃないなら諦めるけど、アイツの言葉で惑わされるな。』


『そうだよね、ごめんね。びっくりして、どうしたら良いか分かんなくて』


優等生の彼女は先生の態度にも驚いたらしい。あんなヤツとか言うとは思わなかったって。


翌日、朝一番に学年室に行き、マウンティグ教師を呼び出そうとした。
が、担任の荒井もいる。面倒くさい。


『ちっと、先生、話があるんでいいですか?』


『なに、要件があるならここで言いなさい。』


荒井の前でアカリの話はしたくない、ちらっと荒井を見ると、空気を察してか、学年室から出て行ってくれた。こういうところは頭が上がらない。


『昨日、アカリに何か言いませんでした?』


『うん、何のこと?』こいつとぼけやがった。


『アイツ、昨日泣いてましたよ。高校行ったらオレのこと忘れるのかな、って』
『先生は好きな人のこと忘れますか!俺だったら絶対に忘れないですけどね!』


『いや、何があるか分からないじゃない、忘れることもあるってことよ。』


しどろもどろでクソみたいな弁解をする教師。


『俺はあんなヤツでも良いですけど、くだらないこと言わないでください。』


本当はもっと色々と言ったと思うけど、怒っていてほとんど覚えていない。
以来、マウンティグ教師がアカリに口出すことはなかったが、ますます俺の先生嫌いは拍車が掛かっていった。


教師ってのは生徒に何を教えるんだ?きたねえテメエらの理屈とセオリーだけじゃないかとも思うし、まぁ、俺みたいなヤツだったら仕方ないかとも思うが、
あんなヤツと別れろ、は言い過ぎじゃないかなと思う。中学生にはちょっと刺激の強い言葉だと思う。


そのくらい、俺がろくでもない男で不釣り合いなカップルに見えたんだろうね。
でも、男と女なんてそんなもんでしょ。似たもの同志がくっつく様に見えて、ちゃんと補完しあってるんじゃないかな。


俺はアカリと付き合って、人に優しくする意味を教わった。
あの時のおはようの一言が、ろくでなしが、ひとでなしにならずに済んだ分岐点だと思っている。でも、ろくでなしはろくでなし。人はそう簡単には変わらない、ということも知ることになるのだが・・・

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